報われるということ
- 2020/12/31
- 23:20

「色々順序があるから、まだすぐすぐに籍を入れるって話じゃないけどさ」 傍らに女性を連れた兄は、生真面目な顔をしてそう言った。 『すぐに』ではないが、その気は互いにあるという事だ。そうでなければ両親に紹介なんてしないだろう。 二番目の兄は、そういう人だ。 手堅くて、器用な生き方が出来て、物事を円滑にする付き合いもこなせる。現に天地がひっくり返らない限り食いっぱぐれる事の無い職に就いた。 当の兄の話で...
オーロラソング 5 (終)
- 2020/05/08
- 21:11
ページを捲った時にふと、目を落としている本に差し込んでいる茜色の光が目についた。 何気なく視線だけを窓へ向けると、窓から沈み掛けながらも一際に眩い西陽が私の目をすがめさせる。最近は陽も延びてきたから、これでももう結構な時間なんだろう。「んぅー……んっ」 手元の本を一旦置いて、猫のように丸まっていた上半身を伸ばす。凝り固まっていた背中と首でポキリポキリと音が鳴って、口からは息が漏れ出た。あぁ、やっぱ...
オーロラソング 4
- 2020/03/29
- 17:39

「--あれは忘れもしない先週の事でシた」「いや先週の事忘れたらやばいですよ」 ついさっきまでは真面目な空気が流れていたというのに、その数分後には打って変わってアホの子みたいな事を口走るミハルさんと律儀に話の腰をへし折っているアホな私がそこにいた。躊躇いが生まれる猶予すらないうちに自分でも驚くくらいキレのある、俗に言うツッコミに類される言葉を放ってしまっていた。 なんと言うか、ミハルさんはナツメさん...
オーロラソング3
- 2020/03/07
- 22:11
私が言葉を返すと、ミハルさんは階段の降り口からひょっこりと顔を出したまま満足げに頷いた。その所作も含めて一つ一つの動きが大きいからなのか、単純に容姿だけで言うならどう間違ってもそうは見えない筈なのに、何故だかミハルさんからはどこと無く子供らしい印象を受けてしまう。でもきっとその印象を決定的にしている要因は、ミハルさんの表情にある気もした。一目見ただけでわかるくらい底抜けに明るくて陰が見えなくて不...
二月八日 夜
- 2020/02/14
- 22:51
何だかふわふわして、とてもいい気持ちだった。 ナツメさんに手を引かれながら階段を上がりきって地上に出ると、冬のよく冷えた夜風が身体を撫でていった。同じ風を受けて道行く人達はほとんどみんな着膨れしているし、その上にエリに首を埋めている人だってちらほら目に入る。けれど道行く人よりは薄着である私はなぜか寒いとは感じなくて、逆にこの風が涼しくて心地良いい位だった。 今日は何だかとても一日が早く過ぎた気が...